この作品は副題が示す通り、『考えるための教科書』だ。実際、全国の小・中学校で道徳の副読本として採用され、一部の高校では、本書の内容を抜粋したテキストを入試問題として出題するなど幅広く利用されている。
読者も14歳から90歳までと、これまた幅広い層の読者から圧倒的な支持を得ている、正真正銘のベストセラーであり、ロングセラーだ。帯にも示されている通り著者は、『人は14歳以後、一度は考えておかなければならないことがある』と読者に訴えかけ、徹頭徹尾、「考えろ」と促すのだ。その考える事柄も『自分とは誰か』『理想と現実』『存在の謎』など実に30項目にも亘り、読者はこの書で、今まで考えたことがなかった様々なことを考え始めるだろう。
その中でも私の心を深く打ったのは『人生の意味』という項目だ。著者はここで、人生とは「今」の集積であり、したがってその「今」、その瞬間瞬間を懸命に生きることが人生の意味だ、と語る。また逆説的に、人生に意味も理由も別になくても構わないと、心の底から思えるまで徹底的に「考える」こと、生きている不思議を、「存在」の不思議を実感し肯定することこそが、強いて言えば人生の意味、なのではないかとも語っている。「語っている」と書いたが、実際にそう著者が書いている訳ではなく、また答えめいたものがある訳でもなく、これは私の解釈だ。だが私はそれで満足している。何故ならこう解釈することで、私の人生観は大きく変わったからだ。数ある宗教の教えのような、神による「救い」があることが人生の意味なのではなく、ただひたすらに考え「今」この一瞬を懸命に生きる、答えなんかない、それこそが、人生の意味なのだと。
そういう考え方に触れることが出来ただけで本書を読んだ価値は十分にある。そう思える一冊なのだ。